帝京大学 特任教授
森記念財団 理事
※以下プレゼンテーション内容は、2020年11月開催のICF2020都市戦略セッション時点の情報を元に構成されており、現在の状況とは異なる可能性があることにご留意ください。
都市戦略セッションでは都市の未来を考える上で、常にFUTURE LIVING、FUTURE WORK、FUTURE MOBILITY、FUTURE ENTERTAIINMENTという4つの都市機能を軸に議論を重ねてきた。今回、都市の未来を考える上で最大の出来事は、COVID-19によって都市活動が止まってしまったということである。
7日間当たりの感染者数の推移を見ると、第1波、第2波と比べて、第3波は2020年11月現在、感染者数が世界同時進行で急増している。 日本では、2020年4月7日から5月25日までの間、東京を含む主要都市に対して「緊急事態宣言」が政府より発せられ、外出自粛が求められた。
緊急事態宣言が人流におよぼす影響を調査するために、2019年10月、緊急事態宣言期間中(2020年の4~5月)、そして2020年10月の3時点における平日午後2時の人の流れを視覚化した。これを見ると、2019年10月と比べて2020年10月の人の動きは減少していることがわかる。
今回のパンデミックが都市の未来にどのような影響与えうるのかを探るべく、2020年10月~11月にかけてロンドン、パリ、シンガポール、東京、サンフランシスコ、ニューヨークの6都市に対してアンケート調査を実施した。
『全く影響はない』~『かなり受けた』までの4段階の選択肢がある中、『ある程度影響を受けた』と『かなり受けた』を合算した割合は対象全6都市において7割程度であった。
回答者の所属する企業もしくは組織の就業場所の規則の変化を見てみると、“在宅”を勤務場所として許可している割合が増加していることがわかる。
逆に、“オフィス”を勤務場所としては認めていない、つまりオフィスでの勤務を禁止している割合がロンドンやシンガポールで増加しており象徴的なデータであると言える。東京は、比較的オフィスでの勤務は禁止しておらず多くの人がオフィスで勤務を続けていることがわかる。
回答者がBefore(パンデミック前)、Now(現在)、そしてFuture(パンデミック収束後の未来)にどこで働いている、もしくは働くかを聞いてみると、ニューヨークで在宅勤務する割合は、Beforeが23%であったがNowは41%、そしてFutureが42%。シンガポールやロンドン、パリ、サンフランシスコも似たような結果で、在宅勤務の割合はNowと比較してFutureは同程度もしくは若干下がる。東京は異なる傾向を示しており、在宅勤務の割合がNowが30%でFutureが42%と、パンデミック収束後の未来においてもさらにその割合が増加していくことがわかる。
テレワーク(teleworking/remote working)に対する満足度を見ると、東京は不満に感じている割合が全6都市の中で最も高い。ニューヨークはテレワークの満足度では比較的満足している割合が多かったものの、逆に生産性が悪化したと感じた人が半数近くいる。テレワークに対する評価は、都市ごとに異なっていることが分かった。
今回のパンデミックを受け特に話題に上がったのは通勤のあり方だ。特に日本の場合、通勤は鉄道を使うことが多く、満員電車のように人が密集した状態で通勤をする場面が多い。このような状況は感染リスクが高いと言われることからその是非が問われることもあった。 このような状況を受け、徒歩や自転車と言った移動手段が増えると言われていたが、人々の意見を聞くと、そこまで劇的にこれらの移動手段の割合の変化は起きていないということが分かった。しかしながら確実に電車利用者は減っており、パンデミック前比較すると電車利用の割合は30%程度減っている。
余暇活動時間の変化については、東京とニューヨークでは余暇時間が増えたと回答した割合が半分を超していたのに対し、ロンドンは時間が増加したと回答したのは32%にとどまった。設問において、leisureという言葉を使ったため、その言葉から受ける人々の印象の違いから評価が変わった可能性もあるが、かなり差が出る結果となった。ロンドンとニューヨークでも結果が大きく異なる。
回答者がBefore(パンデミック前)、Now(現在)、そしてFuture(パンデミック収束後の未来)において自由な時間をどこで過ごすか、家の中なのか、それとも外なのかを尋ねると、Beforeは東京、ニューヨーク、ロンドン、シンガポールのいずれの都市も約70%が家の外を選択していた。現在は当然のことながら家の外を選択する割合は半分以下、30%ぐらいまで下がっているが、パンデミック収束後の未来(Future)の意向も見てみると、家の外に出る割合は増えるものの、パンデミックが収束するという前提に立ってもパンデミック前の水準までは戻らないと多くの人々が思っていることが分かった。
自由時間を誰と過ごすかという視点で尋ねてみた。これまでは同居非同居を問わず色々な人と会っていたが、今回のパンデミックを受け、同居者、つまり家族と過ごしたいという意向が増えている。Futureの意向については、仮にパンデミックが収束したとしても、非同居者と過ごしたい思う割合はパンデミック前の水準には戻らないという結果となっている。
回答者にパンデミックの影響により居住地を変える可能性がどの程度あるのかを尋ねてみると、居住地を変える可能性が少ないと答えた割合(無い、非常に少ない、少ないの合計割合)は、東京が最も多く76%、対して最も少ないのがニューヨークで53%となった。全6都市を見ると6~7割が居住地を変える可能性が無いと回答している。しかしながら裏を返せば、4割から、あるいはニューヨークの場合、5割ぐらいは居住地を変える可能性があるかもしれないと思ってるということである。このことは大都市における人口集中がどうなるかというテーマとつながっており、パンデミック後の計画を検討する上で、大きなテーマとなる。
仮に居住地を変える場合、どこに居住地を移したいかの意向も尋ねた。 興味深いのは、シンガポールとニューヨークは都心へ移動したいと答えた割合が多いという点である。逆に、郊外に出ると考えてるのが東京とロンドンということで、都市によって違いがあることが分かった。 今後、東京の一極集中はどうなるのか。人々が実際に東京から出ていくのかどうかについては、来年の夏以降、パンデミックが収まったときに見えてくるだろう。