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ICF2019 都市戦略セッション

「東京2035―輝く世界都市 ~人は未来の都市空間に何を望むのか?~」

2019年11月20日(水)開催
六本木アカデミーヒルズ タワーホール
登壇者
Hiroo Ichikawa
モデレーター市川 宏雄
明治大学 名誉教授
帝京大学 特任教授
森記念財団 理事
Masaki Hamura
パネリスト葉村 真樹
東京都市大学
総合研究所
大学院総合理工学研究科 教授
Kazuhiro Obara
パネリスト尾原 和啓
執筆・IT批評家
Masami Takahashi
パネリスト髙橋 正巳
WeWork Japan 副社長
営業・マーケティング統括

Introduction


市川

森記念財団都市戦略研究所では、テクノロジーの進展や価値観の変化がどのように未来の都市のライフスタイルを変えるのかについての調査研究を行い、2017年にアニメ映像でそれを表現した。未来の都市の姿を考えるにあたっては、Future Living(衣食住)、Future Work(働き方)、Future Entertainment(エンターテインメント)、Future Mobility(移動)の4つの都市機能にフォーカスした。しかし、近年、都市機能の境界が曖昧になってきている。本日はそのような潮流が未来の都市空間に与える影響について議論したい。セッション開始にあたり、まずは聴衆の皆さんに「ライフスタイルと働き方」に関する、簡単なアンケートを行わせていただきたい。  

会場への質問1.:
「あなたが理想とするライフスタイルにおける、
『働く』と『住まう』と『遊ぶ』の関係性は?」


選択肢 割合(%)
「働く」/「住む」/「遊ぶ」を明確に区別して考えたい 25%
「働く」/「住む」/「遊ぶ」は混在していて良い 69%
特に意識していない 6%
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会場への質問2.:
「自分の未来を考えた時に、
自分はどんな場所で働いているか?」


選択肢 割合(%)
多くの時間は在宅で働いている。(ホームオフィス型) 10%
原則として仕事はオフィスで行っている。(従来型) 24%
自分のオフィスの他に自由に働く場所を持っている。(サテライト型) 73%
常設オフィスを持たず、その時々の状況に応じて働く場所を変える。(モバイル型) 29%
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アンケート結果を見ると、約7割の人は「住む・働く・遊ぶ 」は混在していて良いと考えており、また、未来の働き方については、最近はテレワークにより家でも働くことが可能になってきたものの、アンケート結果を見ると、ホームオフィス型ではなくサテライト型を希望している人が多いという結果になった。これらの結果を念頭に置きつつ、本日のセッションを進めさせていただきたい。


Presentation
葉村真樹『都市5.0「個人の都市」の時代に向けて』


故・黒川紀章氏は、著書『都市デザイン』の中で、都市はこれまでに五つの変遷をしてきたと提唱している。「神の都市」、「王の都市」、「商人の都市」、「法人の都市」、そして「個人の都市」である。

「神の都市」では、交易とその記録、そして、交易のための信用交換が行われた。この時代のイノベーションは会計の概念と文字であり、この新技術により記録が可能となった。それにより交易が広がり、都市が成立していった時代である。この時代は神が神殿に祭り上げられており、都市は神殿とそれ以外という構造になっている。

その後、神殿に権力者が結び付き、そして王が生まれ、「王の都市」へと変わっていった。この時代のイノベーションは貨幣・アルファベット・コデックスであり、「インフォメーション」の拡張である。貨幣は信用取引の際の証拠として存在した。そして、知識を広げる方法として、アルファベットが生まれた。さらに、コデックスという、現代の本の形状の書物が作られたことにより、保存や持ち運びが容易になった。それにより情報が瞬く間に広がるようになり圏域も広がっていった。この時代における都市の構造は、王のいる宮殿を中心に城壁に囲われ、城壁の中では、王とそれに相対する市民階級が出現し、市民のための公共空間である、広場(アゴラ)が形成されていった。

続く、「商人の都市」では、活版印刷が生まれた。活版によってコピーされ、世界中に情報が広がり、産業や商業が発展していった。商業による経済成長、そしてデモクラシーが芽生えていった。すなわち、テクノロジーによって、社会構造が変換され、経済の在り方が変わり、市民の生活が変わる、という流れが存在した。

「法人の都市」の時代になって初めてエネルギーとモビリティの技術が、都市に大きな変化を与える時代になった。産業革命により、「エネルギー」・「モビリティ」・「インフォメーション」の三つの組み合わせのイノベーションが起きた。この時代の都市空間は道路と高層建築物を中心に構成され、効率性が高まった。かつての城壁がなくなり、スプロール化し、様々な要素がミックスされ、公害や問題が起こった結果、用途地域別に分けるという都市計画の概念が生まれた。すなわち、経済合理性を追求し、建築が機械化し、都市はモビリティを中心に設計されるという形になっていった。

こうした過去の流れの中で、これから迎えようとしているのが、「個人の都市」、すなわち「サイバーとフィジカルの融合の時代」である。「インフォメーション」を中心に、「モビリティ」も、「エネルギー」も駆動していくという時代になってきている。一人一人のポケットの中にコンピューターが入ることで、世界へとつながる形ができた。2011年3月11日東日本大震災の時、日本人のツイートが、世界中に拡散した。そういったパワーを持ち得る時代が、10年近く前には既に出てきていた。そして、これまでは個人レベルであったが、今度はモノになって、IoT(Internet of Things)へと広がっていっている。

デジタルトランスフォーメーションの議論では、データを取得し、そしてそのデータを分析し、それに対して何かしらのサービスを提供する、という “Data & Analytics (データ分析)”の話がよくされる。しかし、それを実際に動かす、それ自体をサステイナブルにする、そして人間とどうかかわるのか、といった議論はほとんどされていない。「人間中心」や「ヒューマンセントリック」はお題目のように出てくるが、本質的な話は出来ていない。それが私の問題提起である。

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尾原和啓『どこでも誰とでも働ける時代』


現在13職目で、これまで42のプロジェクトに携わってきた。住むことと働くことの全てが流動的であり、普段、どこにいるか分からないような暮らしをしているが、本拠地はバリ島とシンガポールである。バリ島では、娘が通っている学校の校庭で仕事をさせてもらっている。バリ島の拠点は、ツーベッドルーム、プライベートプール、そして週3回お手伝いさんが掃除をしてくれる。アクセスも良く、徒歩5分程度でウブドの中心地まで行けるのだが、家賃は月10万円。LCC(格安航空券)により、約3万円でバリ島と日本の往復ができるので、月に1回東京に来たとしても、14~15万円で暮らせる。その状況下で、なぜ多くの人が都市に住むのか。都市に住む必要性がなければ、インスピレーションにあふれる場所をホップしながら生きたほうが良いと思っている。

ネットの世界だけでなく、リアルでいることの重要な意味が、人と人とが出会い、新しいものと新しいものが結び付くことだ。これはシュンペーターの定義でいうところの新結合であり、遠くのものをつなぐことが新結合なのだとしたら、イノベーション起こすために遠くに行ったほうが良い。今までの暮らしは、どうしても働く、学ぶ、が住む場所に縛られていた。それがインターネットによって、遠隔地で働くことができるようになったため、好きな場所に住んで働くということができる。

しかし、もっと大事なことは、子どもたちの学びも、住む場所に影響を受けてしまうということである。ただ、それも変わってきている。娘が行っているグリーンスクールという学校は竹でできた3階建ての壁がない教室だが、世界40カ国から、幼稚園から高校生まで400人の子供たちが集まって、プロジェクトベースで学んでいる。バリのような場所でもインターネットのおかげで学ぶことができる。記憶するだけの学びであれば、YouTube上に面白い先生が沢山いるので家で学べば良い。学校では、その学んだことに基づいて、バリのきれいな自然を守りつつ、観光客にたくさん来てもらうにはどうしたらいいのかについて、ディスカッションをするほうが人間らしい。

テクノロジーは、非人間的な暮らしを人間らしいものにするものだ。社会は今、その方向に変わろうとしている。4年前に今のライフスタイルに変えたのだが、その時にFacebookの人口が15億人を超え、今は23億人を超えた。つまり、今世界最大の国は実はFacebook国だ。Facebook国に住めば、どこの国に住むかは関係ない。

インターネットは、ゆがみをなくすということだ。全てがフリクションレスにつながることによって、より人間らしさを引き出していく。ジャック・ドーシーというTwitterの創業者は、いま決済事業も行っている。彼は、お店での支払い時に、せっかくレジで人と人が向き合っているのだから、今日おいしいコーヒー入っているよ、などの人間らしいコミュニケーションを引き出すことが大事だという思いから決済事業を行っている。これこそがインターネットとテクノロジーの在り方だと思っている。そういうふうに境界線が溶けてく中で、あらためて私たちは、どういう都市に住みたいのか、どういうふうに移動したいのか、について今日は議論させてもらいたい。

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髙橋正巳『コミュニティ型ワークスペースから見る未来の働き方』


働き方を環境によってどうやって変革させるか、どういう意味をもたらせることができるかといったことに興味を抱き、約2年前からWeWorkに在籍している。WeWorkは2010年に設立された会社であり、コミュニティ型ワークスペースを世界中で運営している。「コミュニティ」というキーワードがとても重要であり、今後、テクノロジーやAIがますます進化していく中で、人と人とのつながりに我々は価値と可能性を見出している。

事業内容としては大きく四つある。
一つ目はスペース(ワークスペース)。現在、世界中で600拠点ほどある。光あふれるオープンなワークスペースを作っている。

二つ目がコミュニティ。様々な企業、団体、自治体が同じ場所にいるため、なるべく、普段ならつながらないような会社や個人を引き合わせて、そこから新しい価値を生み出してもらえるようなコミュニティを提供している。

三つ目はサービス。仕事をする上で、仕事以外にも、オフィスの運営や引っ越しなど、考えければならないことは沢山ある。そこで、本業や好きなことに集中できるように、それ以外のサービスはWeWork側で請け負うこともしている。

四つ目はテクノロジー。世界中の各600拠点で、今60万人近くのメンバーがいる。テクノロジーを活用して、それらのメンバーをつなげるためのプラットフォームを提供している。

上記4つを我々は「オープン・イノベーション・プラットフォーム」と称しており、普段であれば結び付かないような企業同士が結び付いたり、普段だったら出会わないような個人2人が出会って何か面白いもの始めたりする、そういった空間を提供している。

日本では2018年の2月に、六本木1丁目の拠点をオープンし、約2年事業を展開している。グローバルの文脈に加えて、日本での働き方改革の促進もミッションに掲げながら、スタートアップから大企業に至るまで企業をつなげることを目指している。
現在、日本国内で23の拠点がオープンしており、東京以外にも5つの都市(福岡、神戸、大阪、名古屋、横浜)で事業展開している。日本のWeWorkでは、数人規模のベンチャー企業から大企業、また、自治体も利用している。毎年メンバーに利用状況に関する調査を行っているが、日本における結果として一つ突出していたのが、8割以上のメンバーが、WeWorkに入ったことによってビジネスの成長を実感できた、と言っていることだ。入居したことで、従来では起こらなかった変化やインパクトがあったとお答えいただいている。

ギャロップ社という調査会社が、世界139カ国で、「どれだけ自分の仕事にやりがいを感じているか、熱意を持っているか」について調査している。その結果、日本では熱意を持って仕事に取り組んでいる人はわずか6%で、139カ国中132位だった。しかし楽観的な見方をすると、それしか自分の仕事にやる気を持っていないにも関わらず、経済大国となっているともいえる。さらにここからモチベーションを持って、自分の仕事にプライドとやる気を持てば、さらに良いアウトプットが出るのではないかと思っている。

働き方の未来におけるテーマは「コラボレーション」だ。Ipsos社との共同調査で、人は人とつながったり、人と話したり、人と出会うことを、キャリアや職場において重視していることがわかっている。働く環境を改善することによって、働く人たちの満足度やモチベーションが向上し、最終的に生産性の向上につながる、と考えており、これを支援できればと考えている。

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パネルディスカッション

Q:「テクノロジーやデータ、AIの活用だけでなく、そこに人間がどのように関わるのか」

市川

人間がどのようにデータやテクノロジーと関わるのか、そこの議論が重要だということに対しては同感である。いくらテクノロジーや世の中が変わってきても、人間が幸せで、なおかつやる気にならないと、次にいかない。


葉村

Amazon Goとローソンの無人店舗、どちらもテクノロジーを使っているが、より人間を良くするということに注力しているのは、Amazon Goの方だ。Amazon Goは従来の買い物の考え方を全く変えてしまった。ローソンは、コスト削減のために、お客さんが自分で決済できるテクノロジーを導入しているが、Amazon Goは、買い物の体験を借りて、人と人とのやりとりを高めることにテクノロジーを活用している。そういう考え方がすごく大事だ。


Q:「コラボレーションを生み出す、仕組み、ノウハウ」

髙橋

「日本人はシャイなため、知らない人同士がいて、本当にそこでコラボレーション生まれるのか?」と聞かれることもある。WeWorkでは、ビールやコーヒーが飲み放題である。ドリンクを片手に持ったとき、通常の職場とは違うコミュニケーションが生まれることもある。このような空間はこれまでの職場には存在せず、そこで自分を表現することが求められていなかった。もっと言えばタブーだった。そういうオープンな雰囲気の中で、一個人としての自分を表現できるような環境を提供している。


尾原

イノベーションが生まれやすい環境をどのように作るのかが大事。Googleはプロジェクトアリストテレス(Project Aristotle) という、どうやって人がクリエイティブに働くか、という研究をやっている。一つの例は、マイクロキッチンといって、各オフィスのハブのようなところでコーヒーを飲んだり、お菓子を食べられるスペースを設け、「偶然(Casual Collision)」を設計しようとしている。日常の中に、ほんの少しの非日常の接触を作ることで、新たな結合を生み出そうとしている。

しかし、イノベーションやクリエイティブに最も大事なのは、「心理的安全性 」である。イノベーションとは、今までにないことをすることであり、仲間に対して自分のリスクをさらせるかどうかが重要。また、このコミュニティだったら何を言っても、笑われない、という形で自分から臆せず伝えられる、というコミュニティの文化を創ることはとても大切だ。


髙橋

まさにその安心感が重要であり、今まで全然接点がなかった人たちが、WeWorkという同じプラットフォームのコミュニティに属することによって共通点が生まれる。その共通点があれば、物理的に同じ空間にいる、同じイベントに出る、同じようにコーヒー、ビールを飲んでいるといったことによって、心理的なハードルを乗り越えて新たな会話が生まれる。


Project Aristotle**
:Google 社内で効果的なチームの特徴を明らかにするため、アリストテレスの言葉「全体は部分の総和に勝る」にちなみ、効果的なチームを可能とする条件は何か」という問いに対する答えを見つけ出すために行われたリサーチのこと。
心理的安全性**
:対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味する。心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じておらず、自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地がある。


Q:「どこにいても仕事ができる時代に、何故シリコンバレーに人が集まるのか」

尾原

IBMでは統計的な結果をもとに、リモートワークは非効率であるとして推奨していない。Googleのように、スモールチームでショットガンのように集中して短期間でアウトプットを出す時にはFace to Faceのほうが、効率が良い。シリコンバレーは、ショットガンのようなアウトプットが連鎖反応で起こる街である。世界最大のアクセラレータプログラムであるY Combinatorは、企業が応募して受かったら、その企業はY Combinatorのオフィスから2km範囲に必ずいることが要求される。それは「ちょっとキーパーソンに会わせたい」、と呼んだらすぐにそこで出会って、何か新しいものが生まれるかもしれないからだ。どうしても短期間で何か新しいものをつくろうと思ったら密度が大事になる。


葉村

基本的にFace to Faceは重要である。結局は、人と人の融合の中でアイデアが生まれ、複雑な創発が起きる。日本の昔の例でいうと、たばこ部屋から企画が出てきた商品はたくさんある。そういった状況を、要は仕組みとして作る。都市というのはそもそもそうした存在である。シリコンバレーもそういう場所だ。


尾原

都市はハッシュタグだと思っている。Instagramとかをやっている人は、自分なりの好きな “#(ハッシュタグ)”を持っている。ある種、WeWorkはとてもエッジな働く人が集まっている“#”であり、シリコンバレーというのはIT系の人にとっての“#”だ。


Q:「流動的に住み働ける時代に、東京の大都市圏はどうなるのか」

尾原

さきほどの話と同じで、どういう“#”を持つのか、という話だと思う。例えば、都市のリブランディングで有名なアメリカのポートランドは、街のミッションステートメントを、「都市と自然をバランスよく住みたい人たち」という“#”に決めた。“#”を決めると、自分と価値観の合った人たちが集まることになり、都市自体がWeWorkのようになっていく。東京はどのような“#”を付けたいのか、という話だと思う。


葉村

都市計画の世界では、これまで昼間人口と夜間人口という形で人間を見ていたが、都市にいる人間はこの2種類だけではない。尾原さんのように仕事で世界中を飛び回る人もいれば、観光客もいる。しかし、やはり人間はフィジカルな存在であるため、どこかに寝る場所が必要になる。それをどれだけ集められる都市になるかが、結局都市の将来だ。単純に昼間人口や夜間人口を増やしましょうという話ではない。


尾原

ネット社会になり、音楽をいつでもどこでも聞けるようになったが、この10年で日本のコンサートとライブの市場は2倍になっている。どこでも情報がつながるからこそ、その時でしか体験できないリアルなものを求めて集まる。さらに言えば、自慢ができるようなリアルな経験ができる場所に行きたくなる。


Q:「東京で進む大規模開発に必要な視点、姿勢」

市川

東京では大規模都市開発が至るところで行われているが、皆さんの目から見て、都市開発はどうあるべきなのか、どうすべきなのか、ご意見をいただきたい。


葉村

さきほどの“#”はすごく大事で、要するに「#恵比寿」、「#下北」、がどのように“#”が付けられてきたのかという、why、whatが都市の文脈にある。そこに集まる人たちの思いや、歴史的な積み上げなどを考慮した都市開発であるべきだと思っている。


尾原

人生100年時代になったときに、リンダ・グラットンが、三つの資産が大事になると話している。一つ目が、多くの人がプロフェッショナルワークになっていく状態の中で生産性や、自分自身をどう磨いていくか。二つ目が、次々と新しいものが生まれ、すぐにコモディティー化する状況の中で、如何にして自分を変身し続けられるか。三つ目が、前述した二つを続けていく、人間のベースになるような活力だ。この生産性、変身、活力という三つの資産で考えたときに、どの資産に根差す都市になりたいのかが重要だと思っている。シリコンバレーは、「変身資産」の都市だ。それに対して、私にとってのウブドは「活力資産」の都市である。都市が何の資産なのか、何の“#”に根差すのか、そこをもっと突き詰めていったほうが面白い。


リンダ・グラットン**
:『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)――100年時代の人生戦略』の著者


Q:「増えた自由時間をどう使う様になるのか」

市川

リモートワークが始まると、自由な時間、余暇の時間が増える。余暇を過ごすならどこがいいかと言われたら、自然が多いとこなのか、都会なのか、海なのか。


葉村

僕は自然のほうに行く。でもモードによっては美術館へ行ったり、映画を見たりもある。そもそも余暇という概念があまりない。


尾原

日本語の余暇という言葉が好きではない。漢字だと「暇が余る」と書く。英語で言うとレジャー(leisure)だ。レジャー(leisure)のもともとの語源は「自由である」という意味である。本来、レジャーは、何かオブリゲーションの中でやらなければいけないものではなく、自分の選択の中で自由にできることがある、という意味である。また、ワークライフバランスという言葉についても、私はライフワークバランスだと思っている。つまり、人生の中にどれだけライフワークの比率を高めていけるかどうかということ。ライフワークが100パーセントになれば、ずっと働いていたい、もちろん家族の時間とかも大事にしたい。


Q:「今数多く供給しているオフィスビルは、働き方が変わるとどうなるのか」

髙橋

箱としての価値が変わるのだと思う。例えば、車は所有してその車を運転する形から、UBERのように共有するものになってきている。あえてその場所、そのオフィスに行きたくなるような仕掛けやバリューがあることが重要である。


尾原

集まる理由があればいい。友人の会社はとてもユニークで、自分の仕事は家でやりなさい、ただ、ランチやご飯を食べるときは、親密性が上がるから会社に来たほうがいいと言っている。更には副業をやるときは普段自分が使ってないスキルを見せることができるし、困ったときに相談ができるので、会社に来なさいと言っている。人が集う価値はいくらでも再設計できると思う。


葉村

都市としての競争力が必要で、各々の都市の“#”が何なのかを考えつつも、まずは昼夜間人口だけじゃない様々な人を増やす必要がある。私自身もサテライトで仕事をしているが、1人が複数拠点を持つだけで、1人×5拠点=5箇所ワーキングスペースが生まれる。このような働き方の人が増えると、都市にいる人の種類も、一人当たりの拠点数も変わる。さらに、働く場所は単一要素的なオフィスではなく、WeWorkみたいにミックストユースになってくる。床面積が増え過ぎるという問題は、いくらでも解決できるし、その方向におそらく都市は変わってくる。

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Q:「東京の未来の都市空間がどのようになっていることを望むか」

市川

登壇者の皆さんは、東京の未来の都市空間がどのようになっていることを望むか?


葉村

コミュニティや、あるいはそこでの出会い、創発などの意味合いも込めて、「都市はWeWorkになる」と思っている。つまりWeWorkの「メンバー」と「東京都民」が同じような意味合いを持つイメージである。都市を一つのコミュニティの核として、ネットワークがつながっていくということだ。


尾原

東京の特徴、憧れは、やっぱり世界で一番ミシュランの星がある都市、かわいい文化といったエッジなカルチャーの“#”が集まった街であることだと思う。その都市が持っているルーツをもう一回考え直すことが重要だと思う。僕にとって東京のアイデンティティは、やはり「エッジなカルチャー」だ。


髙橋

日本の良さは海外から帰ってきて気付くことが結構あるが、その良さに気付いてもらうためにも、海外から多くの人に来てもらうことが重要だと思っている。日本の自動販売機や、日本のあれってすごいねと、海外の人たちから言われて、「あ、そうなんだ」、「海外より優れているんだ」と初めて感じるのだと思う。海外からのいろんなインフルエンスや、新しい視点が集まる場所があることによって、東京にいる方々が東京の良さに気付き、そこからポジティブなエネルギーに変えられると思う。「アイデンティティが魅力となって、海外から人を引き付ける場所」になるといいなと思う。観光にとどまらず、そこで働いてみたいと思わせることができる場所であってほしいと思う。


会場への質問3.:
「賛同されるキーワードを選択」(複数選択可)

※以下会場のお客さんの各キーワードに対する賛同率

登壇者 キーワード 会場賛同率(%)
葉村真樹 「都市自体がWeWork(コミュニティ)になる」 50%
尾原和啓 「エッジなカルチャーがある都市」 47%
髙橋正巳 「人を海外から惹きつける場所」 50%
市川宏雄 「人の心を感じられる都市」 42%

Q:「2035年という時間軸において、東京はどうなるか」

市川

今日の議論の時間軸は2035年に置いている。大体15年後の未来という、すごい未来でもなく、近未来よりちょっと先ぐらいだ。15年で東京がどう変わるのか。皆さんの中で思い描く東京とそこでの魅力と課題、何かあればお話しいただきたい。


尾原

2035年というスパンでは、多分AIにおける同時音声通訳の進化が一番大きいのではないか。ほぼリアルタイムで、耳に何か付けていれば、何の摩擦も関係なく、どこの国の人でも話せるようになるというのが多分2035年ぐらいだ。VR/XRも値段が安くなり、眼鏡みたいになる。つまり目(視覚)と耳(聴覚)はボーダーレスになると思う。残るは舌(味覚)と鼻(嗅覚)と肌(触覚)なので、美食国家である日本は、むしろ有利になるのではないか。


葉村

脳のインフォメーションの部分の進化が一番大きい。今から15年前は2004年、スマートフォン前夜のガラケーやi-modeを使っていた時代だ。それを考えると、UIは今とはだいぶ違うものが出てきているだろう。バックグランドで動作するAIにより、摩擦がより少なく、何でもコミュニケーションできるようになるという状況で、『ほんやくこんにゃく』みたいにできるだろう。そうすると日本の英語能力の低さというビハインドがなくなる。


髙橋

同じくAIが大きく進化する15年になるのではないかと思っている。言葉のボーダーが減ってくるときに、言葉ではないコミュニケーションツールとして、アートの世界が残ると思う。アートという新しい共通言語が、人と人の意思疎通のために重要になってくる。現在東京のハッシュタグはアートというふうに言い切れる人は、たくさんはいないような気がするが、将来はデジタルとアートが東京のアイデンティティの一つなっていくのではないかと思っている。


Q:「2035年の未来で人は、どう幸せを感じるのか」

尾原

今は、自分で自分の未来を決めなければいけない時代になっている。私はそれが幸せだと思っている。私は、「自由」を「自らを由縁とする」と定義している。テクノロジーの力でみんなを笑顔にしたいという自分の由縁と今の状態が一致しているから、今の私は自由で幸せだ。都市の“#”があるように、皆さんがそれぞれ自分自身の“#”は何なのか、と考えることが重要なのではないか。


葉村

人類の歴史は自由の獲得の歴史だ。そのためにテクノロジーが進んできた。しかし、いきなり自由になり、選択肢が多くある状態になると、逆に不自由に感じることもあるかもしれない。その時、結局自分自身は何をしたいのか、という議論になる。決められたレールのほうが幸せなのかどうかという哲学的な議論になってくるが、いずれにしても、人々はますます自由になってくるだろう。


髙橋

「誇り」が重要だと思っている。「プライド」というと、「あの人はプライドが高い」というようにネガティブに使われることがあるが、「誇りを持っている」は、とてもポジティブな意味がある。自分の生き方に誇りを持てるかが重要で、最終的には東京にいる人たち、来る人たちが、東京を誇りに思えるかどうか、そういう都市を目指すべきだし、個人もそういう人生を目指すと、その先には素晴らしい世界があるのではないかと思う。

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