Institute for Urban Strategies

> 都市戦略研究所とは

> English

ICF 2016

Future Entertainment

2016年10月20日
Facilitator / Resource Persons
市川 宏雄
Facilitator市川 宏雄
明治大学公共政策大学院 ガバナンス研究科長・教授
森記念財団理事
北野 宏明
Resource Person北野 宏明
ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長
廣瀬 通孝
Resource Person廣瀬 通孝
東京大学大学院情報理工学系研究科 教授
佐々木 龍郎
Resource Person佐々木 龍郎
株式会社佐々木設計事務所 代表取締役
葛西 秀樹
Resource Person葛西 秀樹
株式会社大林組 テクノ事業創成本部 PPP事業部 担当部長

Future Entertainment
人はなぜ、どこで、どのように遊ぶのか?~バイオダイバーシティとテクノロジーが変革する屋外空間をデザインする~



エンターテインメントとは何か

市川

デジタル化が進んでいく中、エンターテインメントの形も変わっていくことが想定される。そういう中で、これからの都市におけるエンターテインメントにはどのような可能性があるのか、そういった観点で議論していきたい。その上で、まずは、皆さんがエンターテインメントをどのように定義されているかを教えて頂きたい。

廣瀬

エンターテインメントは意味のつけ方次第。やっている行為そのものは、実は仕事かもしれないし、生活かもしれないし、もしかしたらモビリティかもしれない。しかし、大別すると2つに分けられると思う。1つは、非日常を楽しみたいという欲望で、もう1つは日常のなかに散りばめられたエンターテインメント。

北野

スティミュレイティングなことやインスパイアみたいなものは、全てエンターテインメントだと感じている。そのため、仕事をしていても、仕事なのかエンターテインメントなのかよくわからないことがある。逆に映画館に行ってつまらない映画だと、エンターテインメントとは言えない。

佐々木

エンターテインメントは演じる人と観る人が存在する。すなわち、人と人がどのように対面し、何を生み出しているのかというところにつながってくる概念だと思っている。

葛西

エンターテインメントには人を集める機能がある。気持ちの良いところや、美味しかったり楽しかったりするところに人は集まる。

ファシリテーター1

現実世界とバーチャルな世界の融合

市川

家庭用ゲーム機を例にとると、1970年代のテレビテニスに始まり、80年代になるとグラフィック性能の高いファミリーコンピューターが出てきた。昨今ではスマートフォンの登場により、ソーシャルゲームが登場し、そして今年、AR技術によって現実の都市空間と融合した。

廣瀬

今はゲームを作る人と楽しむ人が分かれているが、インターネットの力によって、作る人と使う人が一緒になるという遊び方ができてくるかもしれない。

北野

インタラクションがあるからアディクティブになるという意味では、FacebookとかTwitterもゲームなのではないか。ゲーマーが作った世界ではなくて、リアルワールドがゲーミングワールドという意味で。

佐々木

エンターテインメントとスケールというのは重要な概念。家の中では画面の大きさがどんどん大きくなっていき、持ち歩き用は小さくなっている。リアルにつながるようなスケール感、身体と空間の関係みたいなことが理解できると建築を設計する上で役に立つ。


時間や空間に対する没入感やライブ感

市川

映画の歴史を振り返ると、1890年代のサイレント映画から1920年代にトーキーに移り、1930年代にカラー化した。1990年代にはCGが登場し、より豊かな表現が可能になった。そして21世紀になり3D、そしていまでは4Dになって、より現実的な体感型になってきた。そのような流れで映画というエンターテインメントは変遷してきた。

廣瀬

人々の楽しみ方にインタラクティブという要素が入ってきた以上、映画としても何らかの対応を迫られることは間違いないが、映画そのものがこれ以上変わることは難しい気がしている。そうなると、例えば映画のコンテンツを上手にVRに移植して、都市のスケールで映画の世界観を楽しむというように、映画のコンテンツにいろいろな装置を付加していくことで、新しい楽しみ方を考えていくという形もあるのではないかと思う。

>佐々木

先日、山形県の鶴岡市で、Happy Outdoor Theaterというイベントが行われ、道を封鎖してそこに人工芝を敷いて「ジュラシックパーク」を上映した。映画で雨が降るシーンでは自分達で雨を降らせたり、物が飛んでくる場面では発泡スチロールを投げたり、さらにはプテラノドンの模型を作り、竹の棒で飛ばしたりしていた。子供たちは大喜びだった。そのようなエンターテインメントは、おそらく彼らの記憶に残る。同じ物を映画館やホームシアターで見ても記憶には残りにくい。その違いは、共同体への帰属意識や、体験している時間や空間に対する没入感、ライブ感みたいなものがあるのだと思う。

葛西

映画やゲームの世界観を建築にそのまま持ってくることは可能。建物自体が映画の空間にもできるしゲームの空間にもできる。それを音楽のように切り替えて使っていくと、また新たな可能性が生み出されるのではないかと思っている。


エンターテインメント空間とその広がり

市川

ショッピングセンターという商業空間もエンターテインメント空間に変わってきている。

葛西

2002年に名古屋にオープンしたオアシス21では、都市公園の下にバスターミナルと、地下部分に商業の空間を作った。そこでは地下のスペースを周りのモールとつなぐとともに、広場を設けたことで、人々は周りを歩きながらここで休んで食事して、また元気になって出て行くという動きをしている。

北野

面白い建築物とか面白い空間が、大規模に連続しているのが良い。例えばシンガポールのマリーナベイ・サンズと反対側のフラトンの側なども空間として面白い。

佐々木

今、日本の建築が弱いのは都市との接点。住宅のなかにもエンターテインメント要素は沢山あるが、それは街からは見えない。個々が面白いことをやって、それが街から見えれば、都市としてすごくつながってくる。

廣瀬

羽田空港でパブリックアート展をやったことがある。本来はただの通過空間だが、そこに何か新しい付加価値があると人は集まる。


都市におけるエンターテインメントの未来

市川

エンターテインメントという観点で見た時、今後、都市空間としてどのような展開が考えられるだろうか。

葛西

公共空間における賑わいの創出が重要。東京は公共空間をほとんど車が占めており、唯一残っているのが水辺空間。ロンドンもパリもニューヨークも水辺空間があり賑わっている。東京の水辺空間はまだ伸びしろがある。

廣瀬

バーチャルとリアルを融合させれば、答えがたくさんある。建築物にしてしまうと撤去することが難しいが、装置化された形で都市空間の中に埋め込めば、楽しい空間を重層的に作りだすことができる。

ファシリテーター1

北野

東京の運河の総延長は相当な距離がある。水辺空間をつくり変えることで、まったく新しい付加価値を持つ空間を創出することが可能。

廣瀬

高齢化社会においては、リタイアしてからの人生の方が長くなるかもしれない。そのため、都市におけるエンターテインメントというのはすごく重要になる。

佐々木

人というのは消費的に活動している人と、何か発信する人、ある種の生産性を持って行動する人がいる。そういうのを一括りにせずに、どういう人がこの場所にきて、何をするのかということを考えると、精度の高い設計がなされると思う。

北野

多様性がたくさんあるような方向に持っていくのが一番面白い。テクノロジーにこだわり過ぎずに、いろいろな楽しみ方を享受できるような都市が一番面白いのではないかと思う。

市川

室内における家庭用ゲーム機や、映画に加え、最近では複合施設においても様々な娯楽機能を有しているが、結局行き着くところはバーチャルなものが一体どのぐらいリアルに近づけるかということ。バーチャルのレベルはかなり上がっているが、最終的には、リアルの世界との接点がどのぐらい近づくのか、そして都市をどう変えるのか。そこにおそらく、これから20年後のエンターテインメントの1つのキーワードがあるのではないかと考えている。