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ICF 2016

Future Living

2016年10月20日
Facilitator / Resource Persons
足立 直樹
Facilitator足立 直樹
サステナブルビジネス・
プロデューサー / 株式会社レスポンスアビリティ
代表取締役
片山 浩晶
Resource Person片山 浩晶
株式会社ストラタシス・ジャパン
代表取締役社長
市原 敬介
Resource Person市原 敬介
楽天株式会社 執行役員
丸 幸弘
Resource Person丸 幸弘
株式会社リバネス
代表取締役CEO

Future Living
人は誰と、どこで、どのように暮らすのか?~価値観の多様化と、テクノロジーが浸透した居住像をデザインする~

足立

当セッションでは、20年後に東京で暮らす人たちの衣食住がどのように変化しているかという観点で議論を行う。まずは登壇者の皆さんのビジネスや、衣食住との関わりなど教えて頂きたい。

市原

楽天はeコマースを通じて、店舗の営業時間や店の品揃えという制約から消費者を解放した。また、売り手側の観点では、東京などの大消費地にダイレクトにアクセスできる形にした点も大きい。

足立

リアルな店舗は今後どうなっていくとお考えか。

市原

リアルな店舗については、売り手と消費者がキャッチボールをしながら、その場で自分が作りたいものを、3Dプリンターなどを使ってほぼ即時に作っていくというような、ヒューマンタッチの世界とテクノロジーがより融合していくことになると思う。

片山

ストラタシス・ジャパンは、3Dプリンターに関するマーケティングからプロダクト販売、アフターサポートまでを行っている。3Dプリンターは、もともとラピッド・プロトタイピング(試作品を早く作る)として作られたが、現在では2つの流れがある。1つは、試作だけではなく製品そのものを作っていくという流れ。もう1つは、家庭用プリンターのようなパーソナルな方向性。現在は工業分野に偏っているが、今後、広がりを期待しているのが医療分野。バイオプリンティングなどは、今後発展していくだろう。

「世界を変える研究所をつくりたい」という想いで、15人の研究者が集まって設立した会社がリバネス。「Leave a Nest(巣立つ)」という会社の名称にある通り、新しい巣立ちを応援するための仕組みづくりを行っている。最初に取り組んだのが教育分野で、最先端の科学の出前実験教室をビジネス化した。現在では、台風を使った発電や、ミドリムシでジェット燃料を飛ばす研究なども行っている。世界でまだ誰も課題だと思っていないことを課題化し、それを世の中に発信して、みんなで解決するというような仕事をプロジェクトベースでやっている。

ファシリテーター1

働くということ、住まうということ、そして生きるということ

足立

人のライフスタイルや嗜好はより多様化し、パーソナライズされていくと思っているがどのようにお考えか。

片山

これからはマスプロダクションではなく、マスカスタマイゼーションの時代になり、個別のニーズに従ってモノを製造していくことになるだろう。それを可能にするのが3Dプリンティング。これまではメーカーが金型を作ってプロダクトアウトで製造していたものを、金型なしで作れるようにした。さらに今後は、製品の中にセンサーを入れてモニタリングし、モニタリングしたデータに基づいて、製品を製造していくようなことが起こるだろう。

足立

「働く」ということに関しても、eコマースのように時間と空間の垣根が徐々に低くなりつつあると感じているがいかがか。

市原

楽天では東日本大震災を機にリモートワークが許容されるようになった。実際にやってみると、何のために会社に行くのか、というようなことを自分自身に問い直すきっかけとなる。

足立

現在は、育児や介護など暮らし上の必要性からの在宅勤務が多いと思うが、今後は自由意思としての在宅勤務が増大すると思うがいかがか。

そもそも「働く」という概念自体が崩れると思っている。今後は、個と個がネットワークでつながり、「この指とまれ」で物事が動いていく仕組みになっていくだろう。また、将来的には、ライフスタイルの中心が経済価値のベクトルからコミュニティ価値のベクトル、感性が合う人たちとコミュニティを形成するという価値のほうにパラダイムシフトしていくと思っている。

片山

感性で生きていくことが人間の幸せとなったときに、できる人とできない人が存在する。ものづくりの観点でいうと、作ってみたいという想いがあっても、全員ができるわけではない。それを支えるのがテクノロジー。将来的には、データファイルバンクからデータをダウンロードして、それを自分用にカスタマイズするというようになるだろう。それは、メーカームーブメントとかプロシューマームーブメントとかと言われている。そして、今、設計者を解放するようなムーブメントも起きつつある。それは、設計者が一つの企業に従属するのではなく、プロジェクトベースで働くということ。そういう働き方ができるようになれば、北海道に住んでいても、世界中の仕事をエンジニアが行っているという状況が生まれる。

住む場所はどこでも良くなり、所有もしない時代が来る。言語の壁も取り払われる。シェアを前提とし、世界中のどこにでも自分の住める場所が存在しているという状態で、「どこに住んで」「どこの企業に勤めて」という考え方は古い。

市原

所有の概念は変わるだろう。カー・シェアのみならず、服をコーディネートした上で配達してくれるサービスなどもある。所有の概念が最後まで残るのは家だと思うが、家も所有しない時代になると、我々は何を所有することになるのだろうか。

モノではなくコトの所有。時代はそちらの方向に向かうだろう。

会場

50歳を過ぎると、どのように死ぬかということが気になるようになる。医療技術の進歩や健康寿命が延びたとき気持ちよく死ぬことはできるのだろうか。

市原

死生観も自分のスタイルを尊重する考え方が増えていき、徐々に社会も許容していかざるを得なくなるだろう。選択肢が広がり、それを各々がより深く考えなければいけない時代になっていくと思う。

片山

3Dプリンターは、バイオプリントのほうに行こうとしている。バイオプリンティングが実用化されていくと、今まで治療が難しかったような病気なども治療できてしまう可能性もある。そのため、健康寿命を伸ばすということには貢献できると思う。ただし、倫理とテクノロジーの問題というのは二律背反することがある。一番大事なのは、やはり中心にいるのは人間であるということ。人をいかに幸せにできるかということだと思う。


望ましい未来を迎えるために

足立

個人の価値観はどんどん変わっていくが、社会全体の価値観というのは変わりにくい。私たちが望ましい未来を迎えるために何を変えていく必要があるのだろうか。

ファシリテーター1

市原

日本社会は型にはめる傾向が強く、それが無意識のうちに行動原理になってしまっているのではないかと思う。個々人の考え方がかなりディスラプティブ(破壊的)になっていったとしても、社会全体の受容が進まないため、そこで摩擦が生じているのではないかと思う。

型にはめられるのではなく、個のネットワークで生きましょうと言いたい。個のネットワークが当たり前になったときに、社会全体に破壊的イノベーションが起こる。

片山

新しいテクノロジーを導入しようとすると様々な障壁があり、その中でイノベーティブなものを生み出すことは難しい。ドローン特区や医療特区などがあるが、実際は縛られている。型にはめられているものを、どこかのタイミングで突破しないと、20年後はそこを突破したアジアの国に負けてしまう。

足立

テクノロジーの進化によって、今後20年間で我々のライフスタイルに大きな変化があるだろう。その際、多様性が認められるようになるということが大きなポイントなのではないかと感じた。そして、それを担保するための社会としての仕組みが必要だということも同時に感じた。日本社会は制約が強いかもしれないが、私たち個人個人の発想の転換が世の中の仕組みを少し変えて、そして、それがまた、より個人の発想を自由にする。それを2035年までの20年間で何回も繰り返すことが、我々のライフスタイルを豊かにしていくことにつながるのだと感じた。