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ICF 2015 都市開発セッション2

都市開発 × エリア・マネジメント:
ロンドンとニューヨークにおける街づくりの先進事例に学ぶ

2015年10月15日(木)開催
六本木アカデミーヒルズ タワーホール
登壇者
市川 宏雄
モデレーター市川 宏雄
明治大学専門職大学院長
森記念財団理事
リッキー・バーデット
パネリストリッキー・バーデット
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授
ティム・トンプキンズ
パネリストティム・トンプキンズ
タイムズ・スクエア・アライアンス代表
マイケル・キンメルマン
パネリストマイケル・キンメルマン
ニューヨーク・タイムズ建築批評家

イントロダクション:都市開発とエリアマネジメント

市川

都市開発×エリアマネジメント
2012年のオリンピック後も着実に成長を続け、新たな都市再生プロジェクトの成功にむけて勢いを増しつつあるロンドン。公的空間に対する既成概念を打ち破りながら、官民連携を通じて公園や街路の質を大きく高めているニューヨーク。世界で最も魅力的な都市をつくり、育てるために、東京はこれらの都市から何を学ぶことができるか。東京の現在の都市力を分析した上で、ロンドンにおける最新の都市開発プロジェクトやマンハッタンにおけるエリアマネジメントなどについて学び、東京の将来について考えていきたい。

都市開発とエリアマネジメント

東京都心の都市開発
まず、大手町・丸の内・有楽町エリアでは、今後10年間でさらに超高層化が進む。大手町では連鎖型再開発という形の手法がとられており、フェーズごとに順番にビルが建て替わっている。日本橋や八重洲に近い東京駅北側の常盤橋地区には約390メートルの超高層ビルが建つことが決定している。また、虎ノ門では、2014年に竣工した虎ノ門ヒルズの両側にさらに2棟の超高層が建つ予定である。渋谷でも、渋谷駅の改造を含む大規模な再開発が進められている。

このように、東京の各エリアで開発が進み、都心はますます超高層化が進むが、世界の都市でも同様の動きが進んでいる。その中で、東京ではどのように都市の個性をつくっていくのか、いったい東京のアイデンティティとは何なのか、という根本的な議論を行う必要がある。都市開発セッション1では、はニューヨークからシャロン・ズーキン教授、デビッド・マロット氏、東京からは吉見俊哉教授にお越しいただき、社会学や建築学といったそれぞれの視点から東京のアイデンティティをどう考えるかについてお話いただく。

東京の都市力を分析する
現在の東京の都市力を知るためには、多角的な視点で分析することが必要である。森記念財団都市戦略研究所では、「世界の都市総合力ランキング」(Global Power City Index, GPCI)、「世界の都心総合力インデックス」(Global Power Inner City Index, GPICI)、そして「世界の都市圏総合力インデックス」(Global Power Metropolitan Area Index, GPMAI)という三つの視点で分析しているが、本日は「都心の総合力」(GPICI)について説明する。GPICIでは、世界主要8都市を選び、その都心から半径5km圏および10km圏における都市の力を分析・比較している。評価は、都心における主要な要素である「活力」、「文化」、「交流」、「高級感」、「アメニティ」、そして「モビリティ」という6つの分野に関して、合計20指標を用いて行っている。

まず、注目すべきは「世界トップ企業」数である。「フォーチュン・グローバル500」(2015)に掲載されている企業の本社所在地を地図上にプロットしてみると、東京の都心10km圏内には37社あり、他都市よりも多く立地していることが分かる。ここに東京の活力が表れているといえよう。逆に、東京都心の文化施設、特に「劇場・コンサートホール」の少なさは観光における弱みである。また、都心の主たる駅から国際空港へのアクセシビリティを比較している「空港(アクセス・利便性)」の指標では、東京都心から国際空港までのアクセスは悪く、東京都心の国際ネットワーク力は弱いということが分かる。

GPICIの総合結果では、5km圏では香港、東京、そしてパリがランキングのトップ3を形成している。一方、10km圏では東京、パリ、そして香港の順に総合評価が高い。また、大都市圏を有するロンドンとニューヨークがスコアを伸ばし、香港と肩を並べている。エリア別に分析すると、ニューヨークでは、マンハッタンにおけるミッドタウンとダウンタウンにそのパワーを表す都市機能が集積しており、ロンドンではトラファルガー広場からやや西側にかけて非常に高い集積が見られる。東京では、まず皇居のすぐ東側の東京駅から銀座、新橋にかけて非常に高度な集積が見られ、さらに、南西方向に向けても5km圏を超えて都市機能が集中している。

東京都心の都市開発プロジェクト
2020年の東京五輪に向けて活発化している東京都心部での都市開発プロジェクトの多くは、2025年頃までには竣工を迎える。大手町・丸の内・有楽町エリアでは、「連鎖型」と呼ばれる都市再生プロジェクトをはじめとして、さまざまな開発プロジェクトが進行中である。東京駅を挟んで反対側の日本橋・八重洲・京橋エリアでも同様に数多くの開発プロジェクトが進行中である。常盤橋街区再開発プロジェクトでは、東京の新たなランドマークとなりうる高さ390mの超高層タワーが建設される予定である。虎ノ門・六本木エリアでも数多くのプロジェクトが存在しているが、中でも新橋と虎ノ門を結ぶ「新虎通り」では、パリのシャンゼリゼに比する通りを造ろうという大胆な計画がある。渋谷エリアでも大規模な都市再生が行なわれており、渋谷駅街区開発計画では、渋谷駅のリニューアルを含むビル3棟の建設が進んでいる。2020年東京五輪が行なわれる湾岸部の豊洲・晴海・有明エリアでは、五輪開催のための競技施設や選手村の建設が進行中である。

東京都心部におけるエリアマネジメントの動向
開発による都市力の向上に加えて、2000年代以降、東京都心ではエリアマネジメント活動が活発化しており、少なくとも70以上の地域組織が活動を展開している。エリアマネジメントの活動は、新たな大規模開発を核とする「大規模開発型」と、既に存在する市街地を中心とする「既成市街地型」の2つに大きく分類できる。さらに、既成市街地型については、包括的な管理運営計画を共有する「ビジョン共有型」、そして多様な組織がゆるやかに結びつく「プラットフォーム型」、既存の地域の独自性を前提に共通の組織がつくられる「既存地域価値前提型」の3つに分類される。大規模開発型の事例には六本木ヒルズ周辺で行われている活動がある。また、大手町・丸の内・有楽町エリアで行われているのがビジョン共有型の例である。さらに、日本橋エリアではプラットフォーム型の活動が行われている。これらのエリアでは、それぞれの地域特性にあったエリアマネジメント活動が行われており、都市の運営という点でも東京の魅力が向上してきている。

Maps of GPICI

インフラストラクチャーと包摂:ロンドンモデル

バーデット

都市の密度
密度という観点から考えると、ほとんどの建物は5階から8階建てであり、東京はどちらかというと低層の都市であるといえる。しかし、実際には、東京は世界で最も人口密度の高い都市である。これに比べて、ロンドンはどちらかというと拡散しており、密度の低い都市である。ニューヨークはロンドンよりももっと密度が高い。

集積の経済という理論にも見られるように、密度の問題は経済にとって非常に大きな影響を与える。ロンドンの人々の居住地を調べると、彼らが密度の低い地域に住んでいることがわかる。ロンドンの人々の就業地を調べると、非常に多くの人が中心業務地区(Central Business District, CBD)に毎日通勤していることがわかる。ニューヨークの地図からわかるように、ミッドタウンやダウンタウンは高い人口密度を示しており、多くの人々がニューヨークに来ていることがわかる。人口が増加すれば、より能力の高い交通システムが必要になる。ニューヨークにはロンドンに比べてよりよい交通システムがあり、東京には世界でも最も優れた交通システムの一つがある。

リッキー・バーデット

東を指さして
ロンドン全体は今、東側に動いている。テムズ川流域の地区は、豊かな可能性にあふれ、成長し、向上し、投資を行う大きな可能性を享受してきた。しかし、この地域が重要と考えられている理由は別にある。ロンドンの「多次元貧困指数」が示す通り、ロンドン東部は、他の地域と比べて平均寿命が短く、失業率が高く、教育水準も低い。一方、いくつかの例外を除いて、西部はよりよい状況にある。ゆえに、もしロンドンをより平等で、より暮らしやすく、そこで育ち、教育を受け、仕事をするのによりよい街としようとするならば、この「東西格差」に取り組む必要がある。

ロンドンのDNA
ロンドンを他の都市から際立たせているのは、都市計画家のパトリック・アバクロンビー(Patrick Abercrombie)が、ロンドンにグリーンベルトを設けることを計画したことによる。ロンドンの周りには広大な環境保護地区が作られた。このグリーンベルトこそ、ロンドンのきわめて重要な側面であり、DNAと呼べるものである。ロンドン・プランは今後15年間に100万人の人口増加があると予測しているが、もし都市を成長させるとするならば、このグリーンベルトの内側がその対象となる。中でも、しっかりとした公共交通がある特別な地域でのみ開発が許される。

ロンドンで起こっている変化
すべてが完璧というわけではない。ロンドンのシティでは、2000年の歴史を持つ中心業務地区が変化をしようとしている。現在、すでに建設が行われている建物の中には、あまり魅力的でないものも含まれている。これらの建物がどのように空と接しているかということだけでなく、それがどのように地面と接しているのかも重要である。そのことが街がうまく機能するかを左右するのである。

ロンドンの北部に直接つながっている地域の最もよい例は、セント・パンクラスとキングズ・クロスという二つの鉄道駅に隣接している。この地域では最近、鉄道会社による新たな投資が行われている。この大きな旧路線地区は、大学、研究施設、そしてそのほかの商業施設を含む複合開発地区として大きく変貌をとげようとしている。プロジェクト全体は地上のパブリック・スペースのネットワークのまわりに設計されている。このスペースの一つはすでにロンドンで最も利用される広場の一つとなっている。

2012年ロンドン・オリンピックとその先
われわれにとってオリンピックは興味深い経験であった。計画全体は単に2012年だけでなく、オリンピック・パークを変化させるために設計された。ここで不可欠であったのは、公園が20年、30年先にどのような姿をしているのかを考えることであった。この計画の中心には、大型の新しい公園が貧しい地域である東ロンドンに作られるべきであるという考え方があった。ゆえに、公園、自転車競技場、そして屋内プール施設の建設は、地域やコミュニティの住みやすさの向上につながる社会的サービスであると考えられていた。このように、公的資金は都市のバランスを補正することに使うことによって長期的な価値を生んでいる。現在、われわれが取り組んでいるのは、ロンドンをテムズ川沿いに東側へと拡張し、今後、何世代にもわたって増大し続ける人口を包摂していくことである。

Urban Density

タイムズ・スクエアの変革:パブリック・スペースの旅

トンプキンズ

タイムズ・スクエア 1.0: 安全と安心
ニューヨーク・タイムズの本社があったことから名づけられたタイムズ・スクエアはすでに百年の歴史があり、大みそかのイベントなどで人々が集う場所として知られている。ここはパブリック・スペースではあったが、長い間にわたって車や二つの大きな通り〔ブロードウェイと七番街〕の交差点に支配されていた。1970年代から80年代までに、タイムズ・スクエアはアメリカで最も危険な場所の一つとなっていた。公的セクターはこれを変えようと躍起になったが、その過程でタイムズ・スクエアが破壊されかけたほどである。というのも、初期の段階では、歴史的なシアターやダイナミックな看板といったタイムズ・スクエアのオーセンティックで、独自の性格がないがしろにされたからである。この流れは、市民グループの介入によって食い止められた。

タイムズ・スクエア・アライアンスが1992年に創設されたとき、不動産の所有者たちは、パブリック・スペースのマネジメントに関する基礎的な部分に注目を置いていた。当時、これは、この地区を清潔で、安全で、フレンドリーなものとすることを意味した。われわれが、パブリック・スペースをめぐるより高次元の、つまり創造性やオーセンティシティに関わる課題に注目できるようになるのは、それから10年後である。

われわれが初めに行ったことは、大みそかのイベントをおこなう団体などと連携し、街のイメージを変えることだった。基本的にわれわれは衛生や街路の清潔さに焦点をおいていた。われわれは経験豊富なNGOと連携してホームレスの人々に関する課題に取り組んだ。また、ブロードウェイとも連携し、舞台俳優たちが街路で活動できるようにした。このことによってパブリック・スペースがいかに活性化しうるのかを示そうとしたのである。われわれは、また制服を着た人々を街路に配置するという、重要な役割も果たした。彼らは警察ではないので逮捕する権限を持たないが、生活の質にかかわる小犯罪を未然に防ぐための目となり、耳となった。

ティム・トンプキンズ

タイムズ・スクエア 2.0: パブリック・スペースの変革
タイムズ・スクエアの人気が高まったことによって歩行者の混雑がかなりひどくなったため、われわれは歩行者のための環境の重要性について議論した。同時に、われわれは一連の原則をつくり、ニューヨーカー自身が訪ねたいと思う場所を作るということをその一つに掲げた。割引チケットの販売所があるダッフィー・スクエアは、歩道を除いてはタイムズ・スクエアにある唯一のパブリック・スペースであったが、当時はうまく機能しておらず、見た目も悪かった。われわれは新たなパラダイムを作り、新たなパブリック・スペースの構築に関するさまざまなアイデアを通じてその意味を示そうとした。

2008年には、われわれは劇場発展基金(theater development fund)と協力して広場に観客席のような形をした階段(TKTS)を作った。この階段は人気となったが、その理由の一つは、それがタイムズ・スクエアという場所にとって重要な特徴を備えていたからだろう。まず、この階段はギリシャの劇場の形を模しながら、タイムズ・スクエアの中心的な特徴である「舞台」をかたどったものであった。また、この階段は夜、ライトアップされたが、これはタイムズ・スクエアのもう一つの特徴である「デジタル・サイン」のテーマを表すものであった。現在、この広場はさらに改良がくわえられており、その4分の3が終了している。

あるとき、突如として強引なやり方で行う商業活動がきわめて頻繁に発生したことがあった。最もひどい例はミッキー・マウスやクッキー・モンスターの格好をした人々が、パブリック・スペースを訪れる人々に迷惑行為を行うというものであった。タイムズ・スクエアのパブリック・スペースは、またもや制御のきかないものとなってしまった。われわれはこのような強引な商業活動は禁止せずとも規制する計画を提案した。

タイムズ・スクエア 3.0: タイムズ・スクエアのビジョン
ここで重要となるのは「タイムズ・スクエアの創造性と文化に関わるビジョンは何か」、そして「ニューヨークの公的領域におけるビジョンは何か」という問いであった。これらはいかなる建物と建物の間の空間、いかなるパブリック・スペースについても問われるべき問題である。われわれが達した答えの一つは、繁栄し、美しく、よく運営されるとともに、商業と文化、過去と未来のバランスがとれた広場を作るということである。それは偉大な都市の特長である。そしてこのパブリック・スペースは、これを擁するコミュニティの最良の部分を反映していなくてはならないということである。われわれにとってそれはニューヨーク市であるが、世界全体についても考えなくてはならないのである。

われわれは活動の方針として「タイムズ・スクエア・アライアンスの原則と注意規則」というものを作ろうとしている。たとえば、都市は常に変化すべきであるが、同時にその過去とのつながりを忘れてはならない、と示されている。商業的であってもよいが、その活動が、市民の活動を圧倒してはならない。最初の計画においては注意深く選別を行うことが必要だが、予期せぬ出来事や自然な成り行きを許容しなければならない。透明かつ開かれたものであるべきだが、全くの制御不能に陥ったり、何もかもが自由である必要はない。そして来訪者を歓待するとともに、地域住民であるニューヨーカーがそれを自分たちのものである、と感じることができることが何よりも大切である。

素晴らしいパブリック・スペースを生み出す重要な要素の一つは、「己を知り、己を愛せ」ということである。自分の何が優れていて、何がオーセンティックであるのかを知らなくてはならない。そして、それを愛し、大切にしなくてはならない。自分にとって何が本質かを知るとともに、本能だけでなく、事実や分析に基づいて行動しなくてはならない。これによって、自らのコアとなる資質を大切に育むにあたって自分が伝えたり、訴えたいことが明確になるのである。

もし、何かを変化させたいと思うのであれば、つまり、クリティカル・マスを得たいと思うのであれば、コミュニティから始めなくてはならない。コミュニティは、われわれのような組織やそのほかの団体とつながっているかもしれない。そのような努力は、長期間にわたって継続しなければならない。また、一貫性があり、より大きな計画の一部をなしていなければならない。それがパブリック・スペースやそのほかのエリアを変革するためのモデルとなる。その努力は、ばらばらではなく、集中していなくてはならない。そしてその全体において、クリエイティヴでなくてはならない。これらのことを実行すれば、何か真実味があり、オーセンティックなものに到達することができるのである。究極的には、たとえそれが奇抜に見えたとしても、より魅力のある場所につながるのである。それは、少しクレイジーで予測不可能なものになるかもしれない。しかし、そうした要素があってこそ、われわれは都市を愛するのである。

Times Square Transformation

ニューヨークを作り直す、現在の取り組み

キンメルマン

ニューヨークにおける住宅問題ニューヨークでの暮らしは非常にお金がかかる。ニューヨークは、何世代も前から、この街を動かし、そこに生気を与えている多くの人々にとって、ほとんど手の届かない街になってしまっている。ビル・デ・ブラシオ市長がより多くのアフォーダブル住宅を供給するための大々的な取り組みを行っているのはこのためである。ニューヨーク市では、民間のデベロッパーに、アフォーダブル・アパートメントを含む開発計画に減税措置を与えているのである。

ブルックリンには、市が新たな住宅として作り変えようとしている公営住宅や空き地が数多くある。問題となるのは、市場価格の住宅がほとんどないために、ここに住もうとする人々が少なく、この地域に貧困が集中してしまうということである。市当局がニューヨークの東部地域の開発の計画についてじっくり検討している間に、投機的な不動産投資家が物件を購入してしまっている。その結果、地価が上昇し、本来は新たな政策によって保護されるべき非常に貧しい人々が、この土地に住めなくなってしまっている。

ニューヨークの東部に住む人々にとって、単に住宅があるだけでは、それを地域(neighborhood)と呼ぶことはできない。彼らは地域をなす新たな図書館、新たな公園、よりよい学校を欲しいと思っているのである。ゆえに、問題となるのは、どうすればホーリスティック〔全体包括的〕な見方で地域を生み出すかということである。

マイケル・キンメルマン

プラザ・プログラム
ニューヨークで行われているプラザ・プログラムにはタイムズ・スクエアをはじめとする多くの広場が含まれている。ブルックリンのパール・ストリートでは、駐車スペースとして利用されたり、そもそもあまり使われていなかった街路の空間を改善する試みが行われている。そこでは、新たに塗装が行われ、ベンチが置かれ、植物が置かれ、人々が歩行者のための空間として使えるような場所に変えられた。これらの試みは非常に大きな成功をおさめたが、現在の市政が注目していない非常に大きな問題の一部をなしているようにみえる。それは、街路を根本から考え直すことであり、単に歩行者向けの空間を作り出すだけでなく、将来の自動運転車との関係でも捉えなおすことである。われわれは自動車中心という優先順位を変え、自転車利用者、歩行者、そして人々のためにこれらの空間を取り戻すように考えなくてはならないのである。

BIG U プロジェクト
「BIG U」というプロジェクトは巨大ストーム「サンディ」以後に連邦政府予算によって計画されたニューヨークのレジリエンス構築のための取り組みの一つである。この計画はビャルケ・インゲルス(Bjarke Ingels)と彼の建築事務所であるBIGが中心となっている。提案書では、ロウワー・マンハッタンの約10マイルにわたる川岸部分を、より緑豊かで災害に強い空間とすることが目指された。この空間はマンハッタンの南端部分をすべてカバーする形で広がり、ニューヨークを洪水やストームから守ろうとするものである。この計画はまた、新たな遊技場、マーケット、庭園などを加えることで公共空間を改善することを目指している。この計画は公営住宅プロジェクトのそばのマンハッタン東側から始まっているが、ここはフランクリン・ルーズベルト・イースト・リヴァー・ドライヴ(FDRドライヴ)という高速道路によって、水辺から切り離されてきた地域であった。ゆえに、このプロジェクトの重要性は、これまで環境のよくなかった地域によりよいアクセシビリティを与えるというところにある。

超高層ビル群
ニューヨークは、新たな、巨大かつ非常にスレンダーな高層ビルの流行のただ中にある。それらは非常にニューヨークらしいものだ。現在57番街周辺に約1300フィート(約400メートル)の高さを持つ、複数の新たな高層ビルが建てられつつある。それらは雲にかかるほど高く、セントラル・パークを見下ろすものである。このような流れは明らかに人々の間に懸念を生じさせている。ニューヨークはつねに高層ビルの街であった。実際、セントラル・パークの南側の比較的低層の建物は、建てられた当時は高層ビルとして見られていたものであるが、現在はセントラル・パークの美しさの代名詞ともなっている。だからといってすべての高層ビルを擁護するのではないが、高層ビルにはよいものもあれば、悪いものもあるということを申し上げたい。

ロンドンでは論じられているが、ニューヨークでは論じられていないことに、ビルが形作る都市のスカイラインがどの程度、公共空間として捉えられるのか、ということがある。もし、今、誰かがエンパイア・ステート・ビルディングよりも高い建物を建てるとしたら、その建物は街全体の表情を変えてしまうことになるだろう。そして、そのことで、ニューヨークの共有資産に変化を与えることになる。ゆえに、スカイラインはどこまでが公共空間で、その外観に関してどのような決定がなされるべきなのかということに関して議論を行うべきなのである。われわれは公園や街路といった公共空間に関して行うような議論に参加しなくてはならない。もしかすると、この新しい高層ビル群はそのような議論のきっかけになるかもしれない。少なくともこの場から議論を始めることができるのである。

Big U Project

パネルディスカッション

市川

ニューヨークもロンドンも東京も、現時点では似たような課題を抱えているが、2025年以降のことを考えると大きな違いがある。それは人口である。ロンドンもニューヨークも人口が増加するという前提に立って将来の計画を立てているが、東京は2025年頃を過ぎると人口減少に入ると予測されている。そのような前提条件の違いを踏まえた上でディスカッションしたい。

ニューヨークについては、ミッドタウン周辺で超々高層化が始まっている。一方、ロンドンでは、キングズ・クロスのプロジェクトに見られるように、建物の高さを抑えつつ、その土地の歴史性を継承しながら開発を行っている。ニューヨークやロンドンの動向を踏まえて、東京の将来をどのように描くべきだろうか。

キンメルマン

新たな高層ビル群がスカイラインを大きく変化させていることは確かである。二つの丘のように見えるマンハッタンの独自の輪郭線は描きかえられるだろう。しかし、本当の変化は地面の方で起きていて、空中の景観とは何も関係がない。ゆえに、これらの新しい建物によってどのような地域が生み出されようとしているのか、ということが問題である。

パネルディスカッション

バーデット

重要なことは、なぜこれほどまでに高層建築に執着するのかということである。なぜ、都市の未来を語るときにそれほど大きな問題となるのか?究極的には、建物が高いか、細いか、斜めの屋根がついているのかなどいったことは、都市の公共領域に属する問題なのである。物理的・文化的な次元のDNAを大切にしながら、未来のために建物をデザインすることが大切だ。

トンプキンズ

私は今日の議題で触れられた都市の共通点についてコメントしたい。つまり、都市の生活がますます人々の心をとらえているということである。たしかに東京は人口問題を抱えているが、安全であり続ければ、これらの都市は人々が訪ねたいと思う場所であり続けるだろう。しかし、われわれの都市に共通する重要な要素とは、世界の都市化が進むにつれて、人々の都市への移動が増大し、そのために物価がますます高くなるという経済的なプレッシャーがあるということである。これに対処することは重要だろう。

私が東京に対して抱いた第一印象は、いわば秩序と無秩序がまじりあった場所だということである。外観からは、一見、東京にはマスタープランが存在せず、秩序がないようにみえるけれども、私はこのような無秩序の中にも不思議な秩序があるということを発見した。タイムズ・スクエアであれ、ほかの都市であれ、秩序と無秩序、管理と放縦、そして市場の原理と公共の目的についての緊張が、都市の課題に通底しているように思われる。

市川

タイムズ・スクエアは、70-80年代は危なくて行けないところだったが、いま行くと人であふれている。当時を知っている人から見れば驚くほど変わった。今後はどのような展開を考えておられるか。

トンプキンズ

最も基本的なことは、人々のためにより多くの空間を作り出すということである。単にタイムズ・スクエアに多くの人を集めるという問題ではなく、パブリック・スペースにおいてどのように彼らとかかわるかということである。特に深夜のような周縁的な時間帯にそうしてもらうことができるか、が重要である。そして、さらに大きな課題としては、多くの人々がタイムズ・スクエアはその魂を失ってしまったと言っていることである。これは、街の物価が上がる中で、そこにどのようにして活気や創造性を与えていくべきかということが重要になっているということを表している。タイムズ・スクエアで実験を行おうとしていることの一つは、クリエイターやアーティストに協力をしてもらい、今までにない見方でこの場所を見てもらい、そこに活気を与えるということである。

キンメルマン

タイムズ・スクエアは、極端に混雑するようになっており、そのことは問題の一角をなしている。歩行者のための空間を広げる計画はまだ完了していない。ゆえに、ここで起こっていることに対する批判は、近い将来にこの場所がどうなるかということを考慮していないものだ。もちろん、このプロジェクトが完了したときにタイムズ・スクエアの性格は変化するだろう。

バーデット

私は「時間」の重要性を認めることが大切だと考える。朝の6時から、夜の10時や11時、あるいは深夜という時間的スパン、または1週間や1年という異なった長さを通じて出来事を考える必要がある。過去30~50年の間、都市計画家やデザイナーはこのような単位で考えるのが苦手であった。しかし、このように考えることが重要になっている。

幸運にも、ロンドン、ニューヨーク、東京という三つの都市は交通渋滞という共通した問題を抱えている。世界中のほとんどの都市は都市の人口減少、または都心の人口減少に直面している。私はおそらくもっとも大きな挑戦は、もし人口が大きく伸びず、さらに海外からあまり人が来なければ、十分に人がいない場所が生まれてくる危険があるということである。これらの空間はどうなるのだろうか、そしてどのように計画されるべきなのだろうか。タイムズ・スクエアの教訓は非常に有用だと思う。ある意味で、密度や渋滞はそこから得るところの多い問題なのである。